フォーレ Gabriel Faure(1845-1924)
よき歌(優しい歌) La bonne Chanson, Op.61
Sainte・l'aube・lune・chemins・peur・Avant・d'été・N’est-ce・L'hiver
I 後光の中の聖女さま Une Sainte en son auréole (Paul Verlaine)
Une Sainte en son auréole, |
後光の中の聖女さま |
Une Châtelaine en sa tour, |
塔にいらっしゃるお妃 |
Tout ce que contient la parole |
人間の言葉が含む |
Humaine de grâce et d'amour; |
優雅さと愛の言葉のすべて |
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La note d'or que fait entendre |
ホルンの黄金の響き |
Un cor dans le lointain des bois, |
はるか遠くの森で響く |
Mariée à la fierté tendre |
優しい誇りが溶け合う |
Des nobles Dames d'autrefois; |
古の高貴な婦人の |
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Avec cela le charme insigne |
それからーたぐいまれな魅力 |
D'un frais sourire triomphant |
みずみずしく勝ち誇ったような微笑み |
Éclos dans des candeurs de cygne |
白鳥のような純白さと |
Et des rougeurs de femme-enfant; |
幼い女の子のあからみの開花する |
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Des aspects nacrés, blancs et roses, |
白とピンクの真珠層のような輝き |
Un doux accord patricien: |
優しい洗練された調和 |
Je vois, j'entends toutes ces choses |
私が見、聞くこの全てのもの |
Dans son nom Carlovingien. |
カロリング王朝の名前の中に |
(Hyperion Faure complete songsの英訳から)
恋人の美しさを讃える。
よき歌(優しい歌)全曲は次のようになっている。
優しい歌 La bonne Chanson, Op.61 ヴェルレーヌ詩
第1曲 後光に囲まれた聖女さま
第2曲 曙の色がひろがり
第3曲 白い月
第4曲 ぼくは不実な道を歩いていた
第5曲 ほんとに、ぼくはこわいくらいだ
第6曲 おまえが消えていくまえに
第7曲 さて、それは或る明るい夏の日のことだ
第8曲 ねえ、どうだい?
第9曲 冬は終わった
>この詩集は、ヴェルレーヌがマチルドとの婚約時代に書いたものであるが、フォーレはその全21篇の中から9篇を選んで、恋の情熱を歌い上げている。(河本喜介「フォーレとその歌曲」P58)
>第一曲は「輪光の聖女」は、この詩集が婚約の歌と呼ばれるにふさわしい曲である。…許婚者を中世の城の塔の中にいる王女にたとえ、それを聖女とあがめる気持ちをグレゴリオ聖歌のように純粋で単純な旋律で表現している。(河本喜介「フォーレとその歌曲」P60)
一曲目で、恋人の紹介から始まり、
二曲目で、彼女との出会いにより、人生の闇夜が明け、希望が生まれる。
三曲目で、月の光が優しく輝き、快い眠りへ誘う。
四曲目で、自分の過去を振り返り、
五曲目で、愛しているからこそ感じる不安を詠い、
六曲目で、自然に向かって自分の想いを打ち明けたり、
七曲目で、二人の結ばれる日を夢みる。
八曲目で、愛の確かめ合いがあり、
九曲目は、恋の成就の歌で終わっている。
(金原礼子「フォーレ・ゆかりの地を訪ねて」P235)
河本喜介氏は「素晴らしき歌」、金原礼子氏は「よき歌」と訳している。
河本喜介著「フォーレとその歌曲」(音楽乃友社)によると「優しい歌」に用いられているモチーフは次のようになっている。
>ジャンケレヴィッチの分析によれば、9曲の中に5つのモチーフをつぎつぎに登場させて、この曲集を文学的にだけではなく、音楽上からもひとつの統一体として構成している。…このモチーフが中心となって、ピアノの方がしばしば歌と同時に、あるいはそれ以上に重要な役割をもたせている。(河本喜介「フォーレとその歌曲」p58)
A 聖女のテーマ
B リディアのテーマ
C 愛のテーマ
D 自然を呼び覚ますテーマ
E 太陽のテーマ
(上記の譜例は河本喜介著「フォーレとその歌曲」P59より)
この5つのテーマが「優しい歌」全体に散りばめられている。それぞれの曲に流れるテーマを挙げてみると、
第一曲 A聖女のテーマ
第二曲 Bリディアのテーマ
第三曲 A聖女のテーマ、Bリディアのテーマ
第四曲 A聖女のテーマ、Bリディアのテーマ
第五曲 A聖女のテーマ、Bリディアのテーマ、C愛のテーマ
第六曲 A聖女のテーマ、Bリディアのテーマ、D自然を呼び覚ますテーマ、E太陽のテーマ
第七曲 E太陽のテーマ、C愛のテーマ
第八曲 Bリディアのテーマ、C愛のテーマ
第九曲 D自然を呼び覚ますテーマ、E太陽のテーマ、A聖女のテーマ、Bリディアのテーマ
ピアノに現れるこれらのテーマを探していくとこの曲集が一つの統一体であるということが実感できる。特に雪解けを表すような自然を呼び覚ますテーマで始まる第九曲「冬は去った」のあの歓びようといったら!