ブリテン Benjamin Britten (1913-1976)
冬の言葉 Winter Words Op.52 (1953)
Day-Close・Midnight・Baby・Table・Choirmaster・Songsters・Station・Life
8 生まれる前と死んだ後 Before Life And After
Thomas Hardy(1840-1928) 詩集 Time's Laughingstocksより
A time there was - as one may guess |
時があった - 推測できるように |
And as, indeed, earth's testimonies tell - |
確かにこの世の証言が語るように- |
Before the birth of consciousness, |
意識が生まれる前は |
When all went well. |
すべてうまくいっていた時だった |
|
|
None suffered sickness, love or loss, |
病気や愛や喪失で苦しむこともなく |
None knew regret, starved hope, or heartburnings; |
後悔や希望を渇望したり嫉妬することもなかった |
None cared whatever crash or cross |
誰も気にかけなかった |
Brought wrack to things. |
どんな衝突や苦難で物事が壊れようとも |
|
|
If something ceased, no tongue bewailed, |
もし何かが終わっても、嘆く言葉はなかった |
If something winced and waned, |
もし何かが怯んだり衰えたりしても |
no heart was wrung; |
心臓が縮み上がることはなかった |
If brightness dimmed and dark prevailed, |
もし光が弱まり闇が広まっても |
no sense was stung. |
意識は傷つかなかった |
|
|
But the disease of feeling germed, |
しかし感情という病気が芽生え |
And primal rightness took the tinct of wrong; |
根本の正しさが悪の色を染めるようになった |
Ere nescience shall be reaffirmed |
無知が再び認められるまで |
How long, how long? |
どのくらいかかるのだろうか、どのくらい |
最初、創世記のような宗教的な人類の歴史を語っているのかと思った。
しかし詩を読んでいくとどうもしっくりこない。
そこで題名を考えると一人の人間の生まれる前、意識が生まれる前と死んだ後、どちらにしても意識がない状態のことを言っているのかと考えた。
すると、「無知が再び認められる」とは死ぬということだろうか。
根本の正しさとは、神羅万象、楽しいこと、悲惨なこと、全てをひっくるめて感情抜きにそうである、正しいことであるとすることになる。
「悪の色を染める」とは悲しい、悲惨だ、正しくないと思い、良い悪いを判断することになるだろう。
そして「どのくらいかかるのだろうか」とは、この世の悲しみ、憤りを感じなくていよい状態、つまり死を渇望しているかのように受け取れる。
詩の作者は早くこの生を終わらせたいと思っているのだろうか。
この詩集が出たのが1909年、作者は69歳前後だ。
まだあと約20年生きることになる。
How long のところで歌は感情を込める。
曲は静かな諦観を表しているように思える。