クロコジール誌の詩による5つのロマンス Op121 Five Romances Krokodil Magazine / Shostakovich

ショスタコーヴィチ Dmitri Shostakovich(1906-1975)

クロコジール誌の詩による5つのロマンス Op121 (1965)
Five Romances on Words from Krokodil Magazine, No. 24 of August 30, 1965

1 署名入りの証言 / 2 かなわぬ願い / 3 分別 / 4 イリンカと羊飼い / 5 おおげさな喜び

 

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1 Fyodor Kuznetsov, Yuri Serov
 1-0:00   /    2-3:35   /    3-4:52   /    4-6:22   /    5-7:44 

2 Sergei Leiferkus, Thomas Sanderling / Russian Philharmonic Orchestra (Orchestrated by Boris Tishchenko)
 01   /   02   /   03   /   04   /   05 

3 Sergei Leiferkus, Semjon Skigin
 02   /   04 

4 Rolf A.Scheider (in German), Alexander Pankov (Akkordeon)(2021)
 1-0:00   /    2-3:50   /    3-5:08   /    4-6:27   /    5-8:10 

5 Georgiy Dmitriev? (曲順が入れ替わっている→ 分別/イリンカ/署名入りの証言/叶わぬ願い/おおげさな喜び)
 3-0:00   /    4-1:19   /    1-2:45   /    2-6:57   /    5-8:14 

6 Petr Migunov, Arthur Schoonderwoerd
 01   /   02   /   03   /   04   /   05 

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1 署名入りの証言 Autographic Testimony

V Hvorostianke fhozhu v avtobus.

フヴォロスチャンカでバスに乗る

Shofior obilechivayet passazhirov.

運転手が乗客に乗車券を売る

Obraschavus' k nemu s voprosom:

私は彼に質問した

pochemu v Hohlah on ne sdelal ostanovki?

ホフルイでなぜ停車しなかったのか

Stoit, molchit.

彼は黙ってそこに立っていた

Povtoriayu vopros: pochemu v Hohlah ne sdelal ostanovki?

私はもう一度繰り返した、ホフルイでなぜ停車しなかったのか

On shto-to promiamlil pro asfal't...Da kabi... da vezheli...

彼はアスファルトがどうとかこうとか言う。ええともし…、でも…

Ne dolgo dumaya, delayu naklon tulovischa vperiod,

次のことは考えずに私は前に体を傾けた

sosredotachivayu fsiu svoyu silionku v pravom kulake

右の拳に弱った力の全てを集中した、

i po metodu boksa vlepliayu v levoye zhevalo etogo hama.

そしてボクシングの要領でその怠け者の左顎に一発くらわせた。

I yedinstvenno, shto ya skazal yemu v etot moment:

その時こうとだけ言った。

na zh tebe asfal't, hamskaya tvoya rozha.

お前のアスファルトだ、このいい加減なやつめ。

Vot kakiye meropriyatiya prihoditsa primeniat' k izzhitiyu hamstva.

いい加減さを直すためにはそんなやり方も時には必要だ。

Ne podumayte, shto ya bil pyan. Mne shest'desiat sem' let,

酒に酔っていたなんてことはない。私は67歳だ。

i v to utro ya vescho ne zavtrakal.

その朝はまだ朝食も食べてなかった。

-Pensioner Isayev N.M.

年金生活者 N.M.イサーエフ

 

2 かなわぬ願い  A Difficult to Fulfill Desire

Ya holost, i mne trebuyetsa mnogo deneg.

私は独身で、お金がたくさん必要なんです

Zheni takoy ne mogu nayti, shtobì ne nuzhdalsia den'gami,

お金がないために妻を見つけることができません

a poetomu userdno proshu: vishlite pobistrey,

だからはっきり言います、できるだけ早くお金を私に送ってください

a yesli yest' v Moskve takaya,

そしてもしモスクワに

shtobi kormila, poila, i deneg s menia ne sprashivala,

食べ物や酒をくれてお金を要求しない人がいれば

to soobschite mne evo adres. Pozhaluysta.

その女の人の住所を教えてください、お願いします

 

3 分別  Discretion

Hotia huligan Fedulov izbil menia,

ごろつきのフェドゥーロフが俺をひどく殴ったが

ya v organì nashey zamechatel'noy militsiyi ne obratilsia.

我々の立派な警察には通報しなかった

Reshil ogranichitsa poluchennìmi poboyami.

受けた暴力に対して自分を抑えることことにした

 

4 イリンカと羊飼い Irinka and the Shepherd

Ona gliadit pod kruchu vniz,

彼女は険しい丘の斜面を見下ろして

na uliogshihsia u vodi korov,

水辺の近くに寝そべっている牛たちを見ている

na zabavno korotkuyu, kogda smotrish sverhu, figurku pastuha.

上から見るとおもしろいほど近くに羊飼いの姿が見える

Otsiuda on pohozh na mal' chishku.

彼女のいる所からは小さな男の子のように見える

I Irinke vdrug ochen' hochetsa potiskat' yego v rukah,

急にイリンカは彼を手の中にぎゅっと抱きしめて

dolgo podkidivat' v chistoye, goluboye nebo.

晴れ渡った紺碧の空に何度も何度も投げ上げたいという強い思いにかられる

Pastuhu Irinka ne vidna.

羊飼いからはイリンカが見えない

Korenasty, shirokoplechiy, on sidit k ney spinoy i lupit yaytso.

ずんぐりとして大きな肩をして彼女に背を向けて座りゆで卵をむいている

A Irinka uzhasno hochet yego potiskat'.

イリンカは彼をぎゅっと抱きしめたいという思いにひどくかられる

 

5 おおげさな喜び  Exaggerated Delight

Perviy hleb!

初めてのパン!

Komu, skazhite, iz vas ne prihodilos' syest' lomot' hleba novovo urozhaya.

新しく収穫してできた一枚のパンをいったい誰が喜ばないと言うのだろう

Kak on chudesno pahnet solntsem, molodoy solomoy,

なんていい香りだ。太陽の香り、新鮮な藁の香り

a glavnoye, kombayniorskimi rukami, propitannimi kerosinom.

そして最も大切な、油まみれのコンバインの運転手の手の香り

 

 

 

 

 

 

(SerovのCD英訳から)

ソビエトの風刺雑誌「クロコジール」に載った記事や投書から作った曲。
(1) 一曲目は投書を取り上げている。
バスの運転手が停留所を一つとばしたらしい。
ぶん殴ってやったと。
署名まで挙げているのは滑稽だが、皮肉って滑稽だというようには聴こえない。
むしろ多くの普通の人の心の奥底にある沸々とした怒りが現れたという音調だ。
「死者の歌」のコサックの怒りに似ていると思う。

(2) あきれた投書、でもネットでなんでもありの今なら案外叶えられるかも。

(3) 幻想交響曲の最終楽章で使われた「怒りの日」のテーマが鳴り響く。
諦めの気分が支配する。
当時はゴロつきが多かったのか、それともご立派な警察を嫌ったのか、信用しなかったのか。
おそらく当局とつながる警察を嫌った投稿だろう。
泣き寝入りだ。

(4) ピアノがキラキラとして駆け回る。
イリンカの夢想が楽しい。
ほっとする一曲。

(5) 当時はいい加減なものや投げやりなものが横行していたのだろうか。
バスは停留所を飛ばし、警察は信用できない、パンは油の匂いがする。
大っぴらに批判はできないから皮肉に満ちた投書で憂さ晴らしするしかないのだろうか。

Youtubeで2つのライヴ映像を奇跡的に見つけた。
1つはアコーディオンの伴奏でドイツ語、もう1つはロシア語だがだいぶ砕けたパフォーマンスだ。
改まって聴くよりこちらの方が本質をついているのかもしれない。
アコーディオンの伴奏は驚くほどマッチしている。
自由にものを言えないフラストレーションは皮肉となってみんなで笑い飛ばすしかない。
2つのパフォーマンスからそんな内側にもやもやと溜まっていくエネルギーを聴き取った。
レイフェルクスのピアノ版は2つしかアップされていないようでとても残念。
Youtubeの検索は一筋縄ではいかない。
聴きたい演奏をヒットさせるのはとても難しい。

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diary 2023-6-1 (木) 月齢12.5 晴れ・曇り
ショスタコーヴィチのクロコジール誌を改訂。
Youtubeに楽譜版があったのでよかった。
映像のパフォーマンスがあるとは驚きだった。
そしておもしろい。
この曲はこういうふうに笑い飛ばすものだろう。

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