シューベルト 4 凍結 冬の旅 Erstarrung Winterreise / Schubert

シューベルト Franz Schubert (1797-1828)

4. 凍結 / 冬の旅 Erstarrung / Winterreise

 

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1. 冬の旅 4 凍結 Erstarrung

play 1·2·3·4·5

001 Ian Bostridge, Thomas Adès

002 Dietrich Fischer-Dieskau, Gerald Moore

003 Hans Hotter, Michael Raucheisen

004 Gerhard Hüsch, Hanns Udo Müller

005 Christoph Prégardien, Michael Gees

006 Crista Ludwig, Eric Werba

007 Hans Duhan, Ferdinand Foll

008 Ian Bostridge, Jurius Drake (2015)

 

 

ボストリッジ著「冬の旅 4 凍結」の章に挙げられた曲

    play 2- 8 ALL

2. シューベルト:春に D882(詩:シェルツェ)Im Frühling, D. 882

    play Ian Bostridge · Julius Drake

3. シューベルト:橋の上で D853(詩:シェルツェ)Auf der Brücke, D. 853

    play Ian Bostridge · Julius Drake

4. シューベルト:ガニュメート D544(詩:ゲーテ)Ganymed, D.544

    play Ian Bostridge · Julius Drake

5. シューベルト:耽溺 D715(詩:ゲーテ)Versunken, D. 715

    play Ian Bostridge · Julius Drake

6. シューベルト:挨拶を送ろう D741(詩:リュッケルト)Sei mir gegrüßt!, D. 741

    play Ian Bostridge · Julius Drake

7. シューベルト:弦楽五重奏曲緩徐楽章 D956 String Quintet in C major, D. 956 - 2. Adagio

    play Susanna Yoko Henkel - violin, Stefan Milenkovich - violin, Guy Ben-Ziony - viola, Giovanni Sollima - cello, Monika Leskovar - cello

8. シューベルト:怒れるディアナに D707(詩:マイアーホーファー)Der zürnenden Diana, D.707

    play Ian Bostridge · Julius Drake

 

 

4. 凍結 Erstarrung

Ich such' im Schnee vergebens 

無意味に探している

Nach ihrer Tritte Spur, 

雪の中に彼女の足跡を

Wo sie an meinem Arme 

彼女はぼくの腕にもたれて

Durchstrich die grüne Flur.

緑の草地を歩いた

 

 

Ich will den Boden küssen, 

ぼくは地面にキスをして

Durchdringen Eis und Schnee 

氷と雪を貫き通す

Mit meinen heissen Tränen, 

ぼくの燃える涙で

Bis ich die Erde seh'.

土が見えるまで

 

 

Wo find' ich eine Blüte, 

花はどこに見つかるのか

Wo find' ich grünes Gras?

緑の草はどこに見つかるのか

Die Blumen sind erstorben, 

花は死に絶え

Der Rasen sieht so blass.

草は生気がない

 

 

Soll denn kein Angedenken 

それではぼくは思い出を

Ich nehmen mit von hier?

ここから持ってけないのか

Wenn meine Schmerzen schweigen, 

悲しみが和らいだとき

Wer sagt mir dann von ihr?

だれがぼくに彼女のことを話してくれるのだ

 

 

Mein Herz ist wie erstorben, 

ぼくの心は死んだも同然

Kalt starrt ihr Bild darin:

彼女の姿はその中に冷たく固まっている

Schmilzt je das Herz mir wieder, 

もし心がまた溶けたら

Fliesst auch ihr Bild dahin.

彼女の姿も流れ去ってしまう 

(ヒュペリオンのシューベルト歌曲全集の英訳による)

 

 

イアン・ボストリッジの著書『シューベルトの「冬の旅」』(2017年、アルテスパブリッシング発行、岡本時子+岡本順治 訳)を読んでいる。「4 凍結」をボストリッジは全曲の中で一番異常な箇所で、静かに走りまわったかと思うと急にかん高く鋭い叫びになり、『抑制された性的欲望と緊張感がはけ口を求めて吹き荒れてい』るという。「彼女の足跡を探す」から、第1曲目「おやすみ」の「獣道」を連想し、さらに「獲物」を連想する。

 

そしてシューベルトの性的官能的な曲に目を向ける。17歳の少女に対するストーカー、エルンスト・シュルツェの詩に作曲した「春に」「橋の上で」、同性愛的要素のある曲としてゼウスに連れ去られた少年「ガニュメート」、同じくゲーテの詩の「耽溺」、「挨拶を送ろう」、マイアーホーファー詩の「怒れるディアナに」を挙げる。

 

「怒れるディアナに」はローマ神話で、若い狩り人アクタイオンがディアナの入浴を目撃し、怒ったディアナの弓に射られて死ぬことになるというものだ。『昔からある死とオルガスムとの連想にあふれ、強烈にエロティックである』とし、『おしあげるような音で始まり、精力を使いはたしたあとの身震いの波で終わる様子は、まるで音楽による射精だ。』と過激だ。

 

クッツェーという作家の小説回想録「サマータイム」にはシューベルトの弦楽五重奏曲の緩徐楽章をセックスのサウンドトラックとして使う場面があり引用している。作家はまた『音楽には、過去の時代の雰囲気や主観性を呼び起こしたり、または密封してしまう能力がそなわっている』という。『つまり、ボナパルトが去ったあとのオーストリアでセックスするってどんな感じがしたかってこと』

 

ミュラーが使っている動詞durchdringen(貫く)は同義語にimpragnieren(受胎させる)があり、『エロティックな衝動が、大地、母なる大地を貫き通す』という。

 

ボストリッジは「冬の旅」に性的官能的なものを感じていて、自分としては思ってもみなかった。心的エネルギーのリビドーの流れは感じるがフロイトの言うような性的なものは考えてはいなかった。それよりも失恋による悲しみ、何かしらの裏切りや自分を下に見る格差感、よそ者と感じる疎外感の現れがテンポの速いこの曲に現れていると感じていた。渡辺美奈子氏の「ミュラーの生涯と作品」を読むとミュラーは言葉や韻に対して熟考し注意深く選んでいるのがわかる。性的な意味が含まれているのだろう。

ボストリッジの本の4章に採り上げられた曲も聴けるようにした。

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社会状況

ミュラー

シューベルト

1789

フランス革命

 

 

1794

 

10/7ドイツ、侯国アンハルト・デッサウに仕立職人の家に生まれる

 

1797

 

 

1/31ヴィーン、リヒテンタールに教師の家に生まれる

1800

ベートーヴェン交響曲1番

6歳、ハウプトシューレ入学

 

1804

ナポレオン、皇帝に即位ベートーヴェン交響曲3番

 

 

1805

アウステルリッツ三帝会戦でオーストリア・ロシアがナポレオン軍に敗れる、ウィーン占領

 

 

1807

侯国アンハルト・デッサウ、ライン同盟に加わりフランスに従属

 

 

1808

ベートーヴェン交響曲第5番

14歳、母没

11歳、ヴィーン宮廷少年合唱団に入団、寄宿学校コンヴィクトに入学、寮のオーケストラに参加

1809

ナポレオン再びウィーン占領ハイドン没

15歳、父再婚

 

1810

 

 

13歳、初めて4手のピアノのための幻想曲作曲

1812

ナポレオン、ロシアで敗退。プロイセンでフランス占領軍に対する解放戦争始まる

18歳、ベルリン大学入学

15歳、宮廷楽長サリエリに作曲を習い始める、母没

1813

ライプツィヒでフランス軍敗れる。ウーラント「さすらい人の歌」出版

19歳、解放戦争の志願兵になる、グロースゲルシェンの戦い、パウツェンの戦い、クルムの戦い、プラハ、オランダ、ブリュッセルへ

16歳、コンヴィクト終了、王室普通上級学校で教員養成所に通う、父再婚

1814

ナポレオン退位エルバ島追放王政復古。ウィーン会議開始

20歳、ブリュッセルでユダヤ人既婚者と推定されるテレーゼと恋愛、ベルリンに戻る。

17歳、普通上級学校卒業。父親の勤める学校の助教員になる「糸を紡ぐグレートヒェン」「ミサ曲D105」をテレーゼ・グローブ歌う

1815

ナポレオン、エルバ島脱出ワーテルローの戦いで敗北、セントヘレナ島流刑、ウィーン会議終結

21歳、大学生活再開、友人の妹ルイーゼ・ヘンゼルと交際、古典文献学、ゲルマン研究に専念。

18歳、「野ばら」「魔王」

1816

 

22歳、ブレンターノの出現でルイーゼに失恋、シュテーゲマン家で劇「美しき水車屋の娘」演じる5篇

19歳、サリエリの証明書をつけてライバッハの音楽教師のポストに求職するが失敗「万霊節の連祷」「竪琴弾きの歌」「さすらい人」

1817

 

23歳、男爵ザックの研究旅行に随伴。ウェーバー訪問、ギリシャへ行く予定がペスト流行で中止となりイタリアへ向かう。男爵と決別。

20歳、フォーグルを紹介される「死と乙女」「ます」「楽に寄す」

1818

 

24歳、ローマ、フィレンツェ、ヴェローナ、ミュンヘン、ドレスデンに戻る。

21歳、ロッサウ転居。以降両親の生活から離反、エステルハージ家のレッスンに招聘される「軍隊行進曲」

1819

カールスバート決議で自由主義・国民主義の抑圧・検閲

25歳、大学を正式に卒業していないため、デッサウの代用教員になり、副業で図書館員となる。

22歳、「プロメテウス」「ピアノ五重奏ます」

1820

 

26歳、「ローマ・ローマ人」全2巻を出版。世に知られる。父没。「旅する角笛吹きの遺稿より77の詩」出版(美しき水車屋の娘全25篇を含む)

23歳、友人のゼンとともに一時逮捕される「ラザルス」「魔法の竪琴」

1821

オスマントルコに占領されていたギリシャが独立戦争を始める。ウェーバー魔弾の射手

27歳、5月デッサウの参事官バゼドウの娘アーデルハイトと結婚。10月「ギリシャ人の歌」出版。ギリシャを讃える。「ロード・バイロン」「永遠のユダヤ人」「冬の旅」執筆

24歳、シューベルティアーデ始まる「ズライカ」「ミニョン」

1822

 

「ギリシャ人の歌」第2巻出版「新ギリシャ人の歌」

25歳、ヴェーバーとヴィーンで面会。病気に感染「僕の夢」「未完成」「さすらい人幻想曲」

1823

ベートーヴェンミサソレムニス

29歳、「冬の旅」第1部出版。

26歳、数日間総合病院に入院。「夜と夢」「美しき水車屋の娘」「ロザムンデ」

1824

バイロン、ギリシャで病死

30歳、「冬の旅」第2部を含む完成版出版。宮廷顧問官に任命される。

27歳、エステルハージ家の音楽教師に、「夕映に」「弦楽四重奏曲ロザムンデ」「弦楽四重奏曲死と乙女」「八重奏曲」

1825

 

 

28歳、フォーグルとオーストリア州旅行「若き尼」

1826

ウェーバー没

32歳、百日咳にかかる、ジモリンとフランツェンスパートに湯治、デッサウ劇場監督に「13番目」ウラニアに掲載

29歳、宮廷副楽長とケルンテン門劇場の副指揮者に応募するがどちらも失敗、「春に」「シルビアに」「弦楽四重奏曲15番」

1827

ベートーヴェン没

33歳、心気症のようなもので苦しむ、南西ドイツ旅行。ケルナー、ウーラントを訪問。ミュラー作品の出版をするシュヴァープと面会。冷淡なゲーテと面会。10/1死亡、小説「デボラ」ウラニアに掲載

30歳、4月「冬の旅」第1部を見つけ作曲始める。10月第2部を見つけ作曲開始。「即興曲」「ドイツ・ミサ曲D872」

1828

 

 

31歳、「冬の旅」第1部楽譜出版。兄フェルディナントの家に同居。11/19死亡。12月第2部楽譜出版。「ミサ曲D950」「弦楽五重奏曲」「3大ピアノソナタ」「交響曲グレート」「白鳥の歌」

 

 

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@ Schubert  

「冬の旅」について

記録(1)記録(2)記録(3)記録(4)記録(5)記録(6)

ヴィルヘルム・ミュラーとシューベルト 年表 Wilhelm Müller, Franz Schubert, chronological table

1 おやすみ 冬の旅 Gute Nacht Winterreise / Schubert

2 風見 冬の旅 Wetterfahne Winterreise / Schubert

3 凍った涙 冬の旅 Gefrorne Tränen Winterreise / Schubert

4 凍結 冬の旅 Erstarrung Winterreise / Schubert

5 菩提樹 冬の旅 Der Lindenbaum Winterreise / Schubert

6 あふれ流れる水 冬の旅 Winterreise / Schubert

7 流れの上で 冬の旅 Auf dem Flusse Winterreise / Schubert

8 かえりみ 冬の旅 Rückblick Winterreise / Schubert

9 鬼火 冬の旅 Irrlicht Winterreise / Schubert

10 休息 冬の旅 Rast Winterreise / Schubert

11 春の夢 冬の旅 Frühlingstraum Winterreise / Schubert

12 孤独 冬の旅 Einsamkeit Winterreise / Schubert

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