モートン・フェルドマン Morton Feldman (1926-1987
THREE VOICES FOR JOAN LA BARBARA (1982)JOAN LA BARBARAのCDには小さな音でと書かれている。
opening
霧か霞がかかったような混沌状態から始まる
legato
やがて一つの声がその中から浮かび上がる
3つの声はまとまりを持つハーモニーのようになってくる
リズムを持ち始め、
重なり合い、
離れ、
ソロ、
2:1、
1:2、
ユニゾン、
様々に変化し、
静止し、
重なり合い、
豊かな響き合い
slow waltz
ゆっくりな3拍子、
2声が響き合う中、特徴的なフレーズを繰り返す
だだっ広い何もない宇宙空間に放り出されてなす術なく漂っているようだ
時間空間の裂け目に入ったか
first words
ささやきが聞こえてくる。
宇宙空間か時空の裂け目かを漂う中
28分頃 (JOAN LA BARBARA)
綿雪がゆっくり舞って落ちてくるような
温かいイメージが現れる
何故か懐かしい
whisper
耳元で囁く声
やがて熱を持ち下降音形が様々に飛び交う
風が渦巻くようだ
chords
静寂が戻ってくる
響きの変化の味わい
a non accented legato
風の中の揺れ動く草のように流れ動く
snow falls
snow falls が右左中央様々に変化
legato
第2の部分のようにハーモニーの中から
1声が浮かび上がる。
微妙な音の重なり合い、
様々に変化を繰り返す
slow waltz and ending
あのワルツを引き伸ばしたようなフレーズが聞こえてくる
やがてワルツのフレーズがなくなり、
コードだけ変化するが、
聞こえないだけで奥には潜んでいる
snow fallsが戻ってきて
最後にあの温かい懐かしいイメージのsnow fallsが
5回繰り返されて終わる。
なんとも興味深い作品。
JOAN LA BARBARAの声でこの作品を聴くと少しも騒々しくなく、返ってバッハの作品を聴いたかのような爽快感があるのは不思議。
この3つの声それぞれがスピーカーの反対側に頂点を持つ3つの錐形のようなイメージが浮かぶ。
その一つの焦点からそれぞれの声が生まれ出てくる。
そこは死の世界、静寂、無の世界、無意識といったものか。
不動の焦点。
ほとんどの時空間を音で埋めているのだけれど、その焦点にある静寂が返って意識されるから不思議だ。
この作品はフェルドマンの友人であった詩人フランク・オハラFrank O'Hara と画家のフィリップ・ガストンPhilip Gustonの死を契機として作られたようだ。
録音された2声に、演奏者の生の声が加わって演奏される。
2つの声は友人2人の死者の声、もう1人は作曲者自身ということらしい。
ムソルグスキーの展覧会の絵のキエフの大門ように友人と作曲者自身の記念碑のようだ。
ヴォカリーズだけの作品かと思っていたら、途中から言葉が入ってくる。
フェルドマンに捧げられたオハラの詩Windから採られたものだ。
WIND to Morton Feldman
Who'd have thought
that snow falls
it always circled whirling
like a thought
in the glass ball
around me and my bear
Then it seemed beautiful
containment
snow whirled
nothing ever fell
………
最後に全休符のあと、綿雪がゆっくり落ちてくるようなあの温かい懐かしいイメージのsnow fallsが5回繰り返される。
それは、3人の温かい友人関係をこの曲に刻みつけているいるように感じた。
拍子が自在に変わり、繰り返しが5、6回あったりするし、周りにひきづられることなく音程を正確に取るのは非常に難しいだろう。
ジョアン・ラ・バーバラのYouTube演奏は埋め込みができなくなっている。別タブで開くリンクで譜面を見ながらぜひ聴いていただきたい。温かい声と演奏はなんとも素晴らしい。